漫画:高野文子『絶対安全剃刀』 紹介&感想
どうも、たけです。
高野文子の短編漫画集『絶対安全剃刀』の紹介&感想です。Amazonで関連商品に表示され、タイトルに一目ぼれして購入したのですが、大当たりの大満足でした。
どこか胸がざわつく、空気
「空気」を描くのが非常にうまく、各作品ごとに多様な雰囲気が言外に見事に表現されています。そのうちいくつかに共通するのは、どことなく心ざわつかせる不安感です。まさにタイトルの「絶対安全剃刀」と聞いた時に覚えるざわつきがそれです。絶対に、安全な、剃刀。でもざわつかせる以上のことはしてこないのが絶妙なところです。
「少女性」を描く
少女漫画を読んだ経験が乏しすぎるので雑な分析になります。この短編集では少女を描いた作品が多いのですが、彼女の作品には王道少女漫画のようなキラキラはほぼありません。しかし、そちら側ではないこちら側の「少女性」を描く、という意味でごりごりの少女漫画であるように思います。僕は少年なので「少年だったらこうはならない」というような新鮮さと生々しさを感じました。
絵が素敵
作品ごとにわりと絵柄が変わるのですが、それぞれ魅力的です。さわやかで、軽快で、ユーモラスで、幻想的で、きれいで、どこか淡々としていて。構図もコマ割りも、キャラのポーズや表情など、どれも一級品のように思います。とくに表情がたまりません。めちゃめちゃ漫画がうまい。
特に印象に残っている作品
「花」
少女と母が過ごすひとときを描いた作品。たった6ページでセリフも少ないのですが、ある迷信をモチーフにすることで、不安なはずがないのに、なぜかじっとりと不安になります。きっと少女はこのことをずっと忘れないのだろうな、という、そんな独特のひと時を描いています。
「ふとん」
少女の葬式の様子を死者の世界から幻想的に描いた作品。少女のあどけなさ、観音のいたわり、そして観音がそれを「祝い」と称した様に華やかに行われる儀式が印象的でした。
「田辺のつる」
認知症の老女が家族の中で過ごす様子を描いた作品。この作品の特徴はその老女を幼女として描いているところです。老女の中の「幼女性」が引き出され、得体のしれない不安を覚えると同時に、その幼女性が愛おしくもなる。衝撃的な作品でした。
「うらがえしの黒い猫」
分裂症気味の少女の物語。ごっこ遊びと思っている親からは隠された世界での少女の空想が描かれています。そして、その少女の世界が表の世界とふいに交差するところに心ざわつかされました。少年の空想における暴力への憧れとはまた違った不気味さがあります。
以上、高野文子『絶対安全剃刀』の紹介&感想でした。