ルイス・キャロル『少女への手紙』 紹介&感想
どうも、たけです。
『不思議の国のアリス』の作者で知られるルイス・キャロルがたくさんの少女たちへ宛てた私的な手紙を掲載した本『少女への手紙』(平凡社)の紹介&感想です。
僕にとってルイス・キャロルというと、数学や哲学の話題でもよく言及される、ウィットに富み散らかした人物という印象です。「不思議の国のアリス」は見たことも読んだこともないけれど、彼に触れてみたいという興味はずっとありました。そんな中、下記ツイートを見てうってつけの本が存在することを知りました。
「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルが少女達に宛てた手紙をまとめた「少女への手紙」という本がおすすめです。ウィットに富んだ変態が自身の類まれな文才をフルパワーに発揮したラブレター集といった感じで、私的な手紙を晒されているルイスさんには気の毒ですが、勉強になります。
— しおひがり (@shiohigari114) June 4, 2018
もうこのツイートで紹介は済んでいるので以降は蛇足です。
「少女たち」というのは親戚の女の子もいるのですが、掲載されてる手紙の多くは公園や汽車で声をかけた見知らぬ女の子宛てだったりします。そして返事が遅かったり愛想が悪いと説教したりします。あとよく少女に自分の写真を送るよう求めています。わりと思い切った人のようです。それでもというかそれだからこそというか、手紙は愛にあふれていて、少女たちを楽しませようという軽快な冗談が心地よく、勉強になります。いくつか紹介しましょう。
ディンフナ・エリスへ
送ってくださった写真のアルバム、たしかに着きました。みなさんのサインもぜんぶ無事でした。―ただ、駅の小荷物係の人が言うには(その人は気をつけて読んだらしいんです)、きみのサインのおかげでアルバムは「十ポンド以上の値打ち」になったので、「書留にするべきだった」とのことです。
リアリティの持たせ方が小気味よいです。アリスのような特殊な世界に迷い込んだ少女を描く人が、少女に「自分は何か特別なのかもしれない」とときめかせる冗談を言うのはなんだか素敵です。
イーディス・ジェブへ
わたしがドンカスターの駅をたつとき、(中略)わたしが身をのり出して、きみの耳に「さよなら」ってささやこうとしたでしょう(もっとも、きみの耳が正確にはどこにあるのか忘れてしまい、やっとのことであごのすぐ上にあるのを見つけたんですが)
こういう無意味な嘘、大好きです。
エミー・ヒューズへ
(中略)子供にあったら、どんな子供でもかまいませんから、わたしからよろしくと言っといてください。それからキスを二つと半分、送りますから、きみとアグネスとエミリーとゴッドフリーで分けてください。公平に分けるんですよ。
典型的な言い回しをいじるタイプの冗談。「キスをみんなで分けて」は他の手紙でも多用されています。慣用句を前提とすることでおかしな文章を作るという遊び方は、パラドックスを見つける遊びと似ている気がします。「キスを送る」という表現は「キス」を物質的に扱えることを示しており、ならばそれを「みんなで分ける」ことも可能である、が、そう言われると違和感があることを指摘する言葉遊び。言葉遊びにしろ哲学にしろ、そういうのが好きなんでしょうね。
これらの手紙のほとんどでは自分がルイス・キャロルであることは隠していて、「ルイス・キャロルの友達」として彼の本をプレゼントしたりしています。粋ですね。親戚のおじさんにこんな人がいたらなぁと思いながら読んでいました。こういうタイプのユーモアが好きな人にはオススメです。