イタリアンアルティメットダークネス日記

おませな小学四年生たちが綴るわいわいブログ

「A子さんの恋人」 感想・考察

 どうも、たけです。

 漫画「A子さんの恋人」がめちゃくちゃおもしろかった。7巻完結とコンパクトなのもあってまとめて一気に読んだ。何度かタイトルは聞いたことがあった上で、最近完結したのをきっかけに佐久間PのANN0のオススメエンタメで紹介されていたので読む気になった。

 普段は読まない女性誌(「のだめ」以来かも?)の漫画なので全体的に新鮮だった。おもしろすぎたのと、ストーリーの感じとで、ドラマ化される未来がよく見える。逆に言えば、ドラマが話題になってた「逃げ恥」とか「凪のお暇」とかもこんなにおもしろいということか??(どちらも見てないが、読んだ方がいいのか??)

 

 ざっくりとあらすじを言えば...

29歳のA子さんは優柔不断が度を過ぎていて、縁を切ろうにも切りきれなかった末にA太郎とA君という二人の男性と恋人っぽい状態を維持したある種の二股、あるいは三角関係てきな状態に陥る。マンガ家であるA子は仕事に励みつつも、美大時代からの友人であるK子、U子とつるみながら「うだうだ延長したモラトリアム」を楽しんでいた。一方、A君との別れ際にとっさに言った「一年で帰る」という約束の期限は刻々と迫っており...

みたいなね。

 

1エピソード1エピソードがおもしろいので、常におもしろい。その中で始終を貫く本筋が見事に結実して圧巻でした。「三角関係の中でおろおろする主人公」てきな単純なラブコメじゃないです。

 

以下、ネタバレ感想です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず、技法的な話。「ざっくりしたその日のハイライトを描いた後、各人物視点で『実はその背景ではこんなことが~』と詳細を遡って描く」というやり方は強すぎる。ミルクボーイの漫才くらい、ちゃんとやれれば絶対におもしろくなるフォーマット。みごとだった。

 

 次にストーリーの話。 読み終わって、「え、え、え、永太郎~~~~~!」ってなりました。そして、なんだか化かされた気分。

 勝手に「三角関係の中でおろおろする主人公」てきなラブコメを想定して読んでいたのだけれど、いざ完結まで読んでみると全然そんなことない。三角関係なんてなかった。A子がA太郎の部屋に戻る可能性なんてずっとゼロだったのだ(A君と比べてちょっと顔がいい、程度)。A子は「荷物が少なくて」「縛られない人」なのでA君との「結婚」という過ごし方がしっくりこなかっただけであって、最初から最後までA子の中ではA君の方が勝っていたし、A太郎に気持ちが行った瞬間なんてなかった。「A太郎はみんなに好かれる」という魔力に僕もやられていた。A子がA太郎との間に抱えているのは「過去の不義理に対する責任感」だったり「それが作家性に与えた影響」である。[①A子-A君]の関係と[②A子-A太郎]の関係は同列に並べられるものではなく、①は現在進行中の恋であり、②は過去に残した未解決の課題なのである。

 「縛る」というのもキーワードだった。A子さんは「縛られない人」であり、A君もA太郎もそんなA子さんが好きである。その上で誰が誰をどう縛っているのか。それをそれぞれが気にして、その縛りを解いてあげようともがく、思いやりあう関係はきれいだった。

 僕の中では、当初29歳の美大の同期たち主要人物(A子、k子、U子、A太郎、(一応あいこも))と、A君とは分けて認識している。A君は「モラトリアムの延長」をしてないし、美術へのスタンスを示すビーチにも並んでいない(もちろんA君は翻訳のことで悩んでいたし創作者としてくくることも可能だが)。美大生たちの中では「友人関係とは別次元に存在する芸術的才能という軸での比較」というのが人間関係を複雑にしており、A太郎とA子の恋愛関係というのも、純粋な恋愛感情だけでなく、作家としてのリスペクトが混在したものであった。そういった恋愛における不純物の外側にいたA君というのは、A子のことをより素朴に好いていた存在として、結局最初から最後まで余裕で強い立場にいたのである。

 読み終わってみると「結局最初から最後までずっとA君で揺るぎなかったんやんけ」みたいな気持ちになり、これはあだち充漫画(特に「H2」とか)で「結局最初から決まってたやん〜」みたいな気持ちになるのと同じものを感じた(恋愛関係ではないが精算しなきゃいけない大切な関係がある、みたいな感じとかめちゃH2)。あるいは、A太郎目線で見れば「秒速5センチメートル」である。そしてそうなるとこの物語の主人公はA太郎なのではないかとまで思わされるくらい、A太郎は感傷的な存在だった。

 モラトリアムを延長してしまった大人達(A子、k子、U子、A太郎、あいこ)の群像劇であったが、特に、A子とA太郎の青春物語としての部分が印象に残った。自分もモラトリアムを延長してる自覚が強くあるので沁みる。30歳になるの恐えーっ!

 

 名作だった。また少し間を開けて読み直したいと思う。